A Non-Adiabatic Coupled-Rearrangement-Channel Study of Muonic Atom-Nucleus Collision
(非断熱組替えチャネル結合によるミュオン原子衝突の研究)


本論分ではミュオン触媒核融合(μCF)に関連するミュオン原子衝突過程を量子力学的少数多体問題として精密に計算を行った。ミュオン(μ-)はその質量が電子の約207倍と原子核の質量と比べて無視できない。そのため通常の原子・分子でよく使われる断熱近似を用いない、また正しい境界条件を満たすヤコビ座標系を使った非断熱組替えチャネル結合法による高速かつ精密な計算法を開発し次の2つの問題に取り組んだ。
「1. ミュオン移行反応」
μCFサイクルの中でミュオン移行反応 (dμ)+t → d+(tμ)の反応率は重要な位置を占める。 このうち基底状態間(dμ)1s+t → d+(tμ)1s+48 eV 移行反応の断面積、反応率、及び関連する弾性散乱の断面積を 広い入射エネルギーの範囲(Ec.m.=0.001〜100 eV)で計算し、 共鳴状態の有無について詳細に調べた。 実験値のある低い入射エネルギー領域(0.001〜0.1 eV)では、 実験値との良い一致を得た。 系が等熱化する前の高いエネルギーを持つ衝突反応では移行反応率が2桁 大きくなることを示し新しいμCFサイクルの可能性を提案した。
「2. ミュオン分子(d3Heμ)J、(d4Heμ)J の粒子放出崩壊過程」、
d+He+μ系の基底状態は、(Heμ)1s+dの散乱状態であるため、 (dHeμ)J分子状態は、(Heμ)1s+d+hνの過程でX線を出すか、 或は(Heμ)1s+dの過程で粒子放出崩壊する。 これまでX線による崩壊についてのみ計算がなされてきたが、 本論文では粒子放出崩壊について初めて計算を行った。 (dHeμ)J分子状態を正しく共鳴状態としてとらえ、 (Heμ)1s+dの散乱問題を計算しその共鳴幅から 粒子放出崩壊率を求めた。 結果は、(d3Heμ)J分子の方が、(d4Heμ)Jと比べて 約3倍粒子放出崩壊率が高かった。 この結果は最近行われた(d3Heμ)J=1と(d4Heμ)J=1分子 からのX線強度比の実験結果と一致した。


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