スピネル型クロム化合物の光物性

スピネル型クロム化合物の光物性

 スピネル構造における四面体サイトは、局所的な反転対称性を失っている。従って、原子内d-d遷移は、電気双極子遷移許容となる。原子内d-d遷移のスペクトルを配位子場理論により解析することで、結晶場分裂、ラカー係数、スピン軌道相互作用の定数を求めることができる。
 我々は、スピネル型クロム化合物に対し系統的な反射分光を行い(図1)、これらの光学定数を得た(図2)。その結果、配位子を酸素から硫黄に変えることで、光学定数が0.1 eVスケールで激しく変化することが明らかとなった。特筆すべきは、ラカー係数が酸化物では自由イオンの値の80%程度である一方、硫化物では40%にまで繰り込まれている点である。これは、電子間相互作用効果が、硫化物で著しく抑えられていることを物語っている。
 さらに、CuCr2X 4 (X =O, Se)に関する反射分光を組み合わせ、電荷ギャップと磁気的性質(磁気構造、転移温度)が強い相関を持っていることを解明した。

図1: スピネル型クロム化合物の光学伝導度スペクトル。Mサイト(▼)とCrサイト(▽)の原子内d-d遷移を観測した。これらの遷移を、配位子場理論を用いて解析することで、光学定数を求めることができる。

図2: 配位子場分裂(ΔE )、ラカー係数(B )、スピン軌道相互作用定数(ζ )の配位子依存性。

 FeCr2S4とCoCr2S4において、4度を超える磁気光学効果(カー効果)を観測した(図3)。この巨大応答は、強い配位子場混成を有するd-d遷移への共鳴効果に起因している事を明らかにした。

図3: FeCr2S4の磁気光学スペクトル。d-d遷移共鳴に由来する、4度を超える巨大応答を観測した。


<参照文献>

  1. “Gigantic Kerr rotation induced by a d-d transition resonance in MCr2S4 (M = Mn, Fe)” K. Ohgushi, T. Ogasawara, Y. Okimoto, S. Miyasaka, and Y. Tokura, Phys. Rev. B 72, 155114 (2005).
  2. “Magnetic, Optical , and Magneto-optical Properties of Spinel-type ACr2X4 (A = Mn, Fe, Co, Cu, Zn, Cd; X = O, S, Se)” Kenya Ohgushi, Yoichi Okimoto, Takeshi Ogasawara, Shigeki Miyasaka, and Yoshinori Tokura, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 034713 (2008).