量子古典変換

量子論と相対論の統合的理解に関する情報理論的研究

熱場の量子論による有限温度状態のテンソルネットワーク表現とBTZブラックホールの対応

「量子古典変換(ホログラフィー原理,バルク・境界対応)」と呼ばれる概念を指導原理として,次世代物理の統合理論を構築しようという野心的な試みが素粒子論分野において推進されています.これは取り扱いの難しい空間d次元の場の量子論の問題が,空間(d+1)次元の古典的一般相対論と等価であるという非常に驚くべき予想です.このことは,例えば,空間3次元ではもつれのないグラフを空間2次元に射影すると特異点が現れることと似ています.量子側のエンタングルメントと古典側の時空の幾何学に深い関連があることが指摘され大きな興味を持たれていますが,どのような場合にこのような非自明な変換が起こるのかという数学的背景は未だ完全には解明されていません.

私達の研究のオリジナルなアプローチ法は,これを量子情報のメモリの問題と捉えることです.すなわち,量子系などの複雑系の相関関数の情報を適切なフォーマットで表現し,それを情報量最小で格納できるメモリ空間を構成します.このメモリ空間の幾何学がユークリッド幾何学ではなくリーマン幾何学であり,相関長の異なる情報が時空の異なる場所に最小の情報量で格納され,それがあたかも古典的な場として振舞います.この結果,元の系の状態方程式がアインシュタイン方程式に変換されます.これを実際に表現するための数学的研究を行っており,例えば,有限温度の量子系のエンタングルメントの情報から古典側のブラックホール解が構成できるなどの成果を得ています.
今後は時間発展の問題に主眼を置きたいと考えており,それを具体的に推進するために,量子アルゴリズムの量子古典変換にも注目しているところです.