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遺物の保存処理
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木製品 |
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出土した木製品の多くは、土の中に長期間埋まっている間に、木の成分のほとんどを失っていて、水を含むことでその形をかろうじて保っています。取り上げた木製品は、乾燥しないように水漬け状態にして仮保管します。 |
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出土した木製品をそのまま乾燥させてしまうと、木材内部の水分が蒸発して、ひび割れたり変形してしまう恐れがあります。そこで、木材内部の水分を処理剤に置き換えて固め、木製品の形状の維持をはかります。当調査室では、おもに「ラクチトール」という糖アルコールの一種を処理剤として使用しています。 |
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洗浄
出土した木製品には、土などが付いています。これを水で洗い流して木製品をきれいにします。 |
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ラクチトール水溶液含浸〜低濃度〜
木製品をラクチトール水溶液に漬け込んで、木材内部の水分をラクチトール水溶液に置き換えます。最初から高濃度の水溶液に漬け込むと、木製品が収縮してしまうので、低濃度の水溶液から漬け込みはじめ、徐々に濃度を上げていきます。 |
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ラクチトール水溶液含浸〜高濃度〜
ラクチトール水溶液は、高濃度になると室温では固まってしまうので、70℃で加温しながら漬け込みを行います。 |
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ラクチトールの粉まぶし
高濃度のラクチトール水溶液の漬け込みが終わったら、木製品の表面の液をよく拭き取り、ラクチトールの粉末をまぶします。こうすることで、木材内部で均質なラクチトールの結晶がつくられ、木製品の形状を維持できるようになります。
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一次乾燥
ラクチトールの粉末をまぶした木製品を50℃の保温器に入れ、乾燥させます。
表面洗浄
乾燥後、木製品の表面に付いているラクチトールの粉末を洗い流し、水分をよく拭き取ります。
二次乾燥
再び50℃の保温器に入れ、乾燥させます。 |
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クリーニング
木製品の表面に付いている余分なラクチトールの結晶をドライヤーや電気ゴテなどで溶かして除去します。 |
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接合・復元
破片同士がつく場合は、エポキシ系接着剤などでつけます。 |
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保管
保存処理の終わった木製品は、小穴をあけたビニール袋に入れ、それらを湿度調整紙を敷いた密閉容器などに収納します。 |
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木製品を収納した容器は、キャビネットに並べて保管します。 |
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金属製品 |
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鉄や銅で作られた金属製品は、土の中に埋まっている間はジワジワとさびが進みますが、発掘されて空気に触れるとさびがいっきに進み、崩壊する場合もあります。
金属がさびる原因はいろいろありますが、おもに酸素・水分・塩分の存在があげられます。金属製品をこれらさびの原因と引き離すことが、金属製品の保存処理のおもな目的です。 |
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クリーニング
出土した金属製品の多くは、出土時にさびで覆われていて、その正体がわからないこともあります。 |
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そこでまず、金属製品の表面のさびをカッターなどで取り除いていきます。ときには顕微鏡を使い、精密に行います。 |
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塩分対策
[鉄製品]
鉄製品を処理液に漬け込んで、内部に存在する塩分をしみ出させます。
[銅製品]
銅製品を処理液に漬け込んで、銅と薬剤を化学反応させ、塩分の影響を抑えます。
合成樹脂含浸
金属製品の水分を完全にとばした後、金属製品にアクリル系合成樹脂をしみ込ませて、金属製品の強化と、さびの原因である酸素と水分の遮断をはかります。 |
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接合・復元
樹脂がしっかり固まった後、金属製品の表面についている余分な樹脂を取り除ききれいにします。
破片同士がつく場合は、エポキシ系接着剤でつけます。 |
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保管
金属製品を保存処理しても、完全に酸素・水分・塩分を遮断できるわけではありません。
保存処理の終わった金属製品は、乾燥剤・脱酸素剤とともに特別な袋に入れ、しっかりパッキングします。 |
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パッキングした金属製品を容器に収納します。 |
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金属製品を収納した容器は、庫内の湿度が40%になるよう設定した収納庫内に並べて保管します。
酸素や水分の多い場所で保管すると、またさびが進行する可能性がありますので、万一の場合に備え、保管中も定期的な点検が必要です。
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犬の全身骨格 |
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犬の全身骨格は、仙台城跡二の丸北方武家屋敷地区第7地点の1号遺構(大規模なごみ穴)から出土しました。 |
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骨だけ取り上げてしまうと復元するのが大変なので、軽量で強度のあるウレタンフォームで周囲の土ごと包んで、その全体を取り上げました。 |
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土の部分は、そのままでは乾燥してボロボロになってしまうので、ポリエチレングリコール(PEG#4000)を塗って固め、土表面の余分なPEGを取り除いてきれいにしました。
骨の部分は、そのままではひび割れたり粉々に崩れてしまうことがあるので、アクリル系合成樹脂(パラロイドB72)を塗って強化しました。 |
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保存処理終了後。 |
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筵(むしろ)状 敷物 |
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筵状敷物は、仙台城跡二の丸北方武家屋敷地区第14地点の2号池状遺構で確認されました。 |
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表面に桜の皮状のものが確認できましたが、全体像がつかめず、そのまま取り上げると崩れてしまう恐れがあったので、下の土ごと軽量で強度のあるウレタンフォームで包んで取り上げました。 |
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調査室に持ち帰り、筵状敷物の形状を確認しながら裏面の土をギリギリまで取り除き、残った土と筵状敷物が乾燥して崩れないようにポリエチレングリコール(PEG#4000)を塗って固めました。さらに変性ウレタン合成樹脂(トマックNS-10)でガーゼを貼り、裏打ち補強しました。 |
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取り除いた裏面の土の部分にウレタンフォームを流し込んで固め、天地を反転させて上部のウレタンを削り取り、筵状敷物の表面部分を露出しました。 |
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筵状敷物が乾燥して崩れないようにポリエチレングリコール(PEG#4000)を塗って固め、表面の余分なPEGを取り除いてきれいにしました。 |
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保存処理終了後。 |
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