数理的思考をチカラに、交通の未来をひらく。

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交通というフィールドで、社会実装につながる研究を。 交通というフィールドで、社会実装につながる研究を。

 
Theme

道路インフラがもつ潜在能力を最大限に発揮させるために。

私たち井料研究室は、交通システム、とりわけ道路交通システムの分野でさまざまな研究に取り組んでいます。数学的な解析から実道での観測まで、研究手法も多岐にわたり、現在は、交通システム上での車両や人々の挙動を数式によりモデル化し性質を分析する研究、スーパーコンピュータを活用する高並列交通流シミュレータの開発、交通現象を分析するためのビッグデータの管理・分析や観測技術の開発等を主なトピックとして、社会実装を視野に入れた研究を進めています。

道路インフラは産業や生活に欠かせない公共財である一方で、時間や資源を浪費し環境を悪化させる交通混雑などの問題の発生源ともなっています。近年、MaaS(Mobility as a Service)、CV(Connected Vehicle)、自動運転といった先端技術研究が盛んに行われていますが、こうした技術も道路インフラがあってはじめて成り立つものばかりです。生活をより豊かに、産業をより発展させるため、道路インフラがもつ潜在能力を最大限に発揮させること。そのための高度な交通システム工学の研究が、いま強く求められています。

Laboratory

数学で表し、観察もできる。それが交通工学の面白さ。

01

私自身は、東京大学理学部物理学科を経て、工学の世界へやってきました。そこで一貫していたのは、複雑な現象を数理モデル、数式を使って説明することへの強い関心です。最初は、生物を対象に複雑系の研究に取り組む生物物理の方向へ進もうと考えましたが、生物には解剖がつきものでどうも相性がよくなかった。そこで行き着いたのが交通工学だったのです。元々関心があったのは鉄道でしたが、世界中どこにでもある道路の研究なら学問として国際化しやすいだろうと考え、いろいろな数学を使って交通渋滞や混雑を分析する研究をスタートさせました。

02

人間の社会生活や社会関係に基づき発生する社会現象は観察が難しいのに対し、車や人間の移動など、ある意味物理現象である交通は観察・観測ができます。数理モデル化にあたっては、人間の思いや考え方といった要素の検討も確かに必要だけれど、交通の場合は比較的単純なモデル(早く着きたい、安く着きたい、快適に着きたいなど)で事足りる。だからこそ、人間の動きや社会的な要素を数学に落とし込み、計算機をまわして観測するという理系的なアプローチが可能になる。数理モデルの検討はもちろんのこと、交通システムの複雑な現象を直接観察することができるという点に、サイエンスとしての面白さを感じています。

03

工学の学びの特徴の一つに、社会とのつながりが強いという点があります。かつての教え子の一人に、それまでの研究成果を生かし、博士号取得後に自ら起業した学生がいます。社会実装によって教育の成果を社会に還元すること。それができるのも、学問と実用の距離がそれほど遠くない、工学ならではの魅力ではないでしょうか。とはいえ、実験室での実験や実証が中心の自然科学分野では、社会実装というのはかなり難しいものがあります。その点、社会現象である交通には確かなフィールドがあり、道路関連の行政機関等とデータを共有したり連携をとったり、さらに政策に関与するということも可能です。
私のもとで学び、ともに研究に取り組んだ学生のみなさんが、それぞれの研究成果や技術をベースに社会に貢献する姿を目にすることを楽しみにしています。

Project

面白い研究を楽しく!
知的な遊びを大切にして。

井料研究室で大切にしているのは、「できるだけ面白いものをやろう!」「まだ誰もやっていないことをやろう!」という思いの共有です。学生のみなさんに対しても、そうしたスタンスで向き合うようにしています。

研究テーマの選定にあたっても、私自身がすでに答えを持っているようなテーマは提示しません。それは、私たち教員が答えを持っていない研究の方が圧倒的に面白いから。教員があらかじめ答えを持っていて、指示通りにやったらちゃんとできました、というのでは面白くない。みなさんへのフォローアップはもちろんやっていきますが、卒論や修論としてどんなものが出てくるかは私にもわからない、だから研究は面白いのです。

学生のみなさんに対し、わかっていることを私から教えるのは最初の一歩だけ、あとは自由に、自分の考えで存分にやってほしいと思います。大切なのは、知的な遊びを大切にすること。知的な興味があって、「面白い!」と感じたことは自分で勉強し、教員や先輩にも聞いてみる。そうした姿勢で研究室生活を送ることができれば、その経験は将来どんな道に進んでも必ず役立つことでしょう。
研究室の空気を決めるのは学生です。「面白い!」という気持ちを大切に、研究を楽しむことができるみなさんとの出会いを楽しみにしています。

井料 隆雅 東北大学教授 大学院情報科学研究科 人間社会情報科学専攻

井料 隆雅

東北大学教授
大学院情報科学研究科 人間社会情報科学専攻

Takamasa Iryo
Professor, Department of Human-Social Information Sciences, Graduate School of Information Sciences, Tohoku University