Remountable high temperature superconducting magnet - 分割型高温超伝導マグネット


Page 1 : 核融合炉における超伝導マグネット

Page 2 : 分割型高温超伝導マグネット
Page 3 : 高温超伝導導体の着脱可能な接合法の研究
Page 4 : 金属多孔質体を用いた極低温冷媒熱伝達促進法の研究
Page 5 : 分割型高温超伝導マグネットの設計検討
Page 6 : 超伝導機器応用


超伝導とは?

 簡単に説明すると、超伝導とは図1-1のように極低温で金属の電気抵抗が消失する現象です。 このような超伝導現象を示す物質を超伝導体と呼びます。 超伝導状態から通常の電気伝導性を示す常伝導状態へ転移する温度は各物質の固有の値であり、 図1-2に示すように磁場や電流密度に関しても同様に、超伝導状態から常伝導状態に転移する値が存在します。 この常伝導状態に転移する温度と磁場の臨界値をそれぞれ臨界温度(Tc)、臨界磁場(Bc)とよび、超伝導体に電気抵抗が発生し始める電流密度を臨界電流密度(Jc)とよびます。 それぞれの値は、他の2つのパラメータに依存しています。 超伝導の優れた性質を利用した様々な分野への応用が現在研究されています。

 工学応用が可能な超伝導体について、臨界温度の高低で分ける方法があります。一般的に液体ヘリウム(4 K)で 冷却する必要がある超伝導体を低温超伝導体、液体窒素(77 K)で冷却しても超伝導状態を示す超伝導体を 高温超伝導体と呼びます。実用的な低温超伝導体としては合金のNbTiや金属間化合物のNb3Snなどが有名です。また、 高温超伝導体としては、銅酸化物のREBCO系超伝導体(Y-123, Gd-123など)、BSCCO系超伝導体(Bi-2212、Bi-2223など) が有名です。

図1-1 超伝導体の温度と抵抗の関係
図1-2 超伝導状態を決める3つの臨界値


核融合炉とは?

 さて、本研究室で行っている超伝導技術の研究のメインは核融合炉の超伝導マグネットの設計ですので、ここで核融合炉に関するお話をします。

 将来のエネルギー源の一つとして、現在、世界中で研究が進められている核融合エネルギーが挙げられます。 核融合エネルギーは核融合反応によって取り出します。核融合反応とはある原子核とある原子核を融合させて新しい原子核を作り出す反応のことで、 例えば、太陽は水素の原子核が融合してヘリウムを作り出す核融合反応によって燃え続けています。

 核融合炉は核融合反応(太陽と同じ原理)を用いて発電を行うもので、最も実用化に近いとされているのが水素の同位体である重水素(D)の原子核と三重水素(T、トリチウム)の原子核を 融合させてヘリウムを生み出すDT反応を用いたものです。
 D + T → 4He (3.52 MeV) + n (14.06 MeV) + 17.58 MeV

 重水素核と三重水素核の核融合反応を起こすためには、まず、重水素と三重水素をプラズマ状態にする必要があります。プラズマとは正イオンと電子が電離した状態のもので、 気体を高温にすることでプラズマ状態にすることができます(固体→液体→気体→プラズマ)。 重水素および三重水素の原子は原子核と電子1つから構成されているので、プラズマ状態にすると原子核が裸の状態になります。 したがって、プラズマ状態で重水素と三重水素の原子核同士が衝突を起こせば核融合反応が起こります。

 ここで、原子核はプラスの電荷を持っているので、原子核同士が衝突するには、原子核の運動エネルギーが原子核同士の電気的な反発力(クーロンエネルギー)を 上まらなければなりません。 そこで、核融合炉では、プラズマを1億度以上の高温にして、原子核の運動エネルギーを高めることで、すなわち高温プラズマ状態で核融合反応を起こします。 しかしながら、現在の技術ではそれを閉じ込められる材料は存在しません。 そこで、荷電粒子が磁場による磁力線にからみつくという性質を利用します。 プラズマは、原子が電離した状態なので、磁力線のかごを作ることにより閉じ込めることができます。 このように磁場(磁界)を用いてプラズマを閉じ込め核融合反応を起こす核融合炉のことを磁場閉じ込め型核融合炉と呼びます。


核融合炉における超伝導マグネットの役割

 磁場閉じ込め型核融合炉では、プラズマを閉じ込める磁場を生み出すためのマグネット(コイル)が必要です。  磁場閉じ込め核融合炉の例としては、図1-3のITERや図1-4のFFHRなどがあります。ここで、核融合発電所の成立条件を考えた場合、  

 入力電力<<出力電力
 
の関係が成立しなければなりません。すなわち核融合炉の最終的な発電量よりも、コイルなどの核融合炉を構成する機器で 消費する電気が多い状態では発電所として成立しません。マグネット(コイル)は電流を流すことで磁場を生み出すものです。 すなわち、電気抵抗によるジュール損失(電力損失)が発生し、入力電力が増大します。また、ジュール損失にともなう発熱に より過度な温度上昇が起こるとマグネットが溶けてしまうため、マグネットの冷却も必要です。 銅のような常伝導体を用いたマグネットでは、大きなジュール損失に加え、温度を一定に保つための冷却 システムも大規模なものになり、冷却システムに必要な入力電力も増大します。

 そこで、マグネットの材料として電気抵抗がゼロとなる超伝導体を利用します。超伝導マグネットの採用によって、 常伝導マグネットにより発生される膨大な電力損失をなくすことができます(超伝導マグネットを臨界温度以下に保つための冷却エネルギー・電力が必要になりますが、常伝導マグネットでの 電力損失に比べて小さなものです)。これは、外部への正味の電気エネルギーを供給する核融合発電所成立の必須条件でもあります。

図1-3 国際熱核融合実験炉 ITER
ITER Organization
http://www.iter.org/default.aspx
図1-4 ヘリカル型原型炉 FFHR
核融合科学研究所
http://www.nifs.ac.jp/


超伝導マグネットとコスト問題(核融合炉の運用問題)

 核融合炉が、実用発電プラントとして成立するためには高い経済性を得ることが大きな課題です。そのためには核融合炉の建設及び運用にかかる費用の削減が必要不可欠です。 核融合炉の建設コストの中で超伝導マグネットの製造コストがとても大きな割合を占めています。

 超伝導マグネットの製造コストが高くなる原因として製造の困難さが挙げられます。 超伝導体を熱処理するための巨大な炉や、製作するための膨大な時間が製造コストの増大に結びついていると考えられています。また、一度組み立てられた超伝導マグネットは、 移動や取り外しが極めて困難であるため炉内構造物へのアクセス性が低下します。この炉内アクセス性の低下はメンテナンスコスト増大の原因となると考えられています。 加えて、マグネットの一部が損傷した場合には、マグネット全体を製造しなおさなければなりません。

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