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分子建築

分子建築(molecular architecture)という用語は生命系分野でもタンパク質のような天然の大規模分子に対して用いられていますが、近年大規模な人工分子を扱う分野でもこの言葉が用いられるようになりました。人工の大規模分子系では基本的には数種類のモノマーの重縮合によって巨大なポリマー(高分子)を合成する方法が産業的にも成功して、近代文明を支える要素の一つとなっています。しかしタンパク質のような大規模かつ緻密な構造の天然物による、特異な機能の発現を人工分子で実現するのには手間と困難を伴います。

これに関連して、マクロな人工の機械を参考にしたミクロな人工分子を設計・合成する「分子機械(molecular machine)」という考え方が登場しました。さらに大きなマクロの人工物、すなわち橋やビルディング、家屋の形や建て方を参考にしてミクロで大規模(?)な人工分子を合成する「分子建築」という考え方も登場しました。分子のレゴ(molecularLEGO)・分子のブロック(molecular buiding block)・分子足場(molecular scaffold)などの用語も分子建築を実現するための概念と考えることができます。分子建築の考え方により合成された分子により天然物類似機能の発現を目指す場合は、「生体模倣化学(biomimetic chemistry あるいは bio-inspired chemistry)」とも関係してきます。

分子足場

分子足場(molecular scaffold)という用語も、タンパク質・ペプチドなどの生体由来物質の研究分野で用いられますが、人工的に合成された分子にも用いられます。特定の位置に置換基を導入し易い分子であることが多く、一般的に形は様々です。足場という表現からはある程度の規模の大きさが想定されますが、小さな分子に対しても用いられています。規模の小さい分子は合成用ビルディングブロック(synthetic building block)と呼ばれることもあります。当研究室ではマクロな足場のイメージに近い、縦・横・斜め型に置換基を導入し易い分子系を足場としてデザインして、その合成法や反応について研究しています。さらに側鎖配列制御型連結によるタンパク質模倣系への応用について検討しています。

ビルディングブロック

ビルディングブロックは積み木や建築用ブロックを意味しますが、有機化合物の合成においては小規模の分子を比較的単純な反応を用いながら、より大きな分子に変換していく場合に使用する小規模分子を指します。

チオフェン、ベンゾチオフェン、および チエノチオフェン

チオフェンは硫黄原子を含む化合物です。平面5角形分子であるチオフェンは、硫黄に隣接する炭素原子に比較的穏やかな条件で置換基を導入できるという特色があります。ベンゾチオフェンは6角形であるベンゼン環に、チオフェンが縮環した化合物です。チエノチオフェンはチオフェン同士が縮環した化合物です。

タンパク質模倣系と側鎖配列(シークエンス)制御

天然の機能性分子系であるタンパク質およびその集合体の形あるいは機能をヒントにした人工の大規模分子系を構築しようとする試みです。天然・非天然のアミノ酸を組み込む研究も蛋白質工学として知られていますが、これとは別にアミノ酸とは異なる構造要素を用いる研究があります。タンパク質の構造や機能は側鎖の配列によって制御されるという考え方(アンフィンゼンのドグマ)を考慮したものが多く、よく用いられるのはベンゼン環を同じ方向に連結して全体としてタンパク質のαヘリックスを連想させる柱型のデザインです。間に他の結合を挟むこともあります。初期の研究例としてはHamiltonらによるm-位(つまり軸に対して斜め方向に)側鎖を持つベンゼン環を3個縦に連結した系などが知られています(A. D. Hamilton et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 5382 (2001))。αへリックスを模倣するアプローチとしては、より限られた領域でのフィッティングを目指した研究も報告されています。また分子内水素結合等を利用してαへリックスの模倣を目指す研究も知られています。